赤字でも申告すれば、給与から引かれた所得税が戻ることがある
還付は白色申告でも受けられる。青色なら赤字を3年繰り越せる。
開業1年目、副業のネットショップは23万円の赤字でした。市役所の税務窓口で確定申告を受け付けていましたが、自分の分は申告するのが面倒で出しませんでした。5年を過ぎたのでもう還付申告はできません。この経験をもとに、赤字の年にできることと、その条件・期限を記事にまとめました。
この記事でわかること
- 赤字だけなら所得税の申告義務は基本的にない。ただし申告しないと、戻るはずの税金を受け取れない
- 給与があれば、事業の赤字を給与所得と相殺して所得税の還付を受けられる(損益通算)。雑所得だと相殺できない
- 差し引ききれない赤字は、青色申告なら翌年以後3年繰り越せる(純損失の繰越控除)。白色は原則対象外
- 還付のための申告は5年間さかのぼって出せる
赤字で確定申告しないとどうなる?申告したほうがいいケースもある
所得税の確定申告が義務になるのは、原則として納める税金があるときです。事業が赤字で、ほかに申告が必要な所得もなければ、申告しなくても罰則はありません。
ただ、赤字の年に確定申告書を出さないと、その赤字を給与所得などのほかの所得と相殺する損益通算は使えません。翌年以降の黒字から差し引く純損失の繰越控除も使えません。期限後に申告書を提出しても適用を受けられる場合がありますが、損益通算と繰越控除のどちらにも赤字の年の申告書が要ります。
赤字が出たときに何ができるか
損益通算で所得税が戻る(白色でも可)
青色なら3年繰越・第四表
給与とは相殺できない
前年が黒字なら、赤字を繰り越す代わりに、前年分の所得税の還付を受ける「繰戻し還付」を使える場合があります。インボイス登録済みなら消費税の申告が必要になることもあります。
会社員の副業でどんなときに申告が必要になるか(いわゆる20万円ルールの中身)は、「受付1,000件でわかった損する人・危ない人」に書きました。
なお、事業が赤字でも、インボイス登録をして消費税の課税事業者になっている場合は、所得税とは別に消費税の申告が要ります。開業1年目は基準期間がないため原則として免税ですが、登録した年からは消費税がかかります。
融資や住宅ローンを受ける予定がある場合は、赤字の申告書が審査で不利に働くことがあります。事業所得の赤字を給与所得と損益通算すると、課税対象となる所得が減ります。ただし損益通算をすると、勤務先に届く住民税の通知に載る税額が、給与だけのときと変わります。副業を勤務先に知られたくない場合は、「副業の住民税で会社にバレる仕組み」も確認してください。
私の失敗:23万円の赤字を、そのままにした
令和2年、BASEでアパレルのネットショップを開業しました。当時は勤めていて給与があり、開業時に青色申告承認申請書を出していました。コンサルティングに20万円を支払い、そのほかに広告費などもかかり、1年目の収支は23万円の赤字でした。私は市役所の税務窓口に3年いたので、損益通算の仕組みは知っていました。
それでも申告しませんでした。申告義務がなく、1年分の帳簿をまとめて申告書を作るのが面倒だったからです。
申告していれば、23万円の赤字を給与所得と相殺(損益通算)した結果、源泉徴収されていた所得税の一部が還付され、翌年度の住民税も下がっていました。当時の給与収入は年500万円ほどで、所得税の税率は10%でした。
具体的には、所得税が約2万3,000円戻り、翌年度の住民税が約2万3,000円下がる計算です。合わせて約4万6,000円になります(復興特別所得税を除いた金額です。所得控除の状況で変わります)。
翌年、ネットショップの売上は814万円まで上がりました。この年の決算書は別の記事で公開しています。黒字の年は自分で申告しましたが、前年の赤字については申告しないままにしました。面倒だと思っているうちに、そのまま申告しないままになりました。
還付を受けるための申告期限は5年です。令和8年現在、令和2年分の申告期限は過ぎているため、私はもう還付を受けられません。
事業所得か雑所得かで、税務上の扱いが変わる
給与との損益通算も、青色申告の純損失の繰越控除も、副業の赤字が「事業所得」であることが前提です。副業が「雑所得」と扱われる場合、赤字は給与所得と相殺できず、青色申告の対象にもならないので、その赤字を繰り越せません。この赤字を差し引けるのは、同じ年のほかの雑所得からだけです。
事業所得と雑所得を分ける一律の基準はなく、副業の継続性や営利性、帳簿の有無などから判断されます。国税庁の通達では、取引を記録した帳簿や書類を保存していない場合、副業の所得は原則として雑所得と扱われます。例外として、収入が300万円を超え、事業としての実態が認められる場合は、帳簿などを保存していなくても事業所得と扱われることがあります。
ただし、帳簿があれば必ず事業所得になるわけではありません。収入がごく小さいときや、赤字が続いているのに改善に取り組んでいないときは、事業所得か雑所得かが個別に判断されます。
私は開業届と青色申告承認申請書を出し、1年目の途中で商品が売れ始めたころからfreeeで帳簿をつけ、翌年以降は事業所得として申告しました。これから副業で物を売るなら、売上の大小にかかわらず、最初の年から帳簿をつけておくと安心です。事業所得か雑所得かの判断に迷う場合は、税務署に相談してください。
純損失の繰越控除の仕組みと、必要な「第四表」
純損失の繰越控除は、事業などの赤字のうち、その年のほかの所得と相殺しても引ききれなかった分(純損失)を、翌年以後3年間の所得から差し引ける制度です。制度の概要は国税庁の「タックスアンサーNo.2070」に、適用の要件は「所得税法第70条」に書かれています。使うための条件は、次の3つです。
- 青色申告であること
白色申告は原則対象外です。例外として繰り越せるのは、変動所得の損失と、被災した事業用資産の損失だけです。 - 赤字の年に、第四表を付けた確定申告書を出すこと
損失申告用の第四表に純損失の金額を記載します。私はこれを出しませんでした。 - その後も連続して確定申告書を出すこと
赤字の年に確定申告書を1回提出するだけでは、条件を満たしません。
注意
繰越控除を受けるには、赤字の年だけでなく、その後の年分の確定申告書も続けて提出する必要があります。途中で申告しない年があった場合の扱いは、税務署に確認してください。
青色申告をするには、事前に青色申告承認申請書の提出が必要です。期限は原則、青色申告を適用したい年の3月15日です。1月16日以後に開業した場合は、開業から2か月以内です。
次の比較は私の実例ではありません。給与がなく、赤字を丸ごと翌年に繰り越す場合です。1年目に23万円の赤字が出て、2年目に事業の所得が50万円になったとします。
| 赤字の年に申告した | 申告しなかった | |
|---|---|---|
| 1年目 (23万円赤字) | 第四表を提出。納税は0円 | 何もしない。納税は0円 |
| 2年目 (所得50万円) | 50万−23万=27万円をもとに課税 | 50万円をもとに課税 |
| 税額の差の目安 | 約3万4,500円(所得税5%+住民税10%と仮定した場合) | |
これは単純計算です。1年目はほかに所得がなく、赤字を全額純損失として繰り越し、2年目は給与所得などに所得控除をすべて適用済みと仮定しています(復興特別所得税は含めていません)。所得や控除の内容で実際の金額は変わります。
この条件では、23万円の赤字を申告した場合としなかった場合の税額差は約3万4,500円です。内訳は所得税が約1万1,500円、住民税が約2万3,000円です。住民税は還付されるのではなく、翌年度の税額が下がります。
赤字の年の確定申告でやること
赤字の年でも、やることは黒字の年とほぼ同じです。
- 1年分の帳簿をつける売上と経費を記帳します。会計ソフトなら銀行口座やカードの明細を取り込んで仕訳できます。
- 青色申告決算書を作る赤字の年でも青色申告決算書を作成します。収支がマイナスのまま提出して問題ありません。なお、青色申告特別控除は控除前の所得額が上限なので、赤字の年には使えません。控除で赤字を増やすことはできません。
- 確定申告書に第四表を付ける損失申告用の第四表で、繰り越す純損失の金額を確定させます。第四表は(一)(二)の2枚で、第一表・第二表と一緒に提出します。純損失とは、損益通算をしてもほかの所得から差し引ききれずに残った赤字のことです。給与所得などのほかの所得と相殺して赤字を全額差し引ける場合は、繰り越す純損失が残らないため、第四表は要りません。私の23万円の赤字も、給与所得と相殺すれば引ききれる金額でした。
- e-Taxで提出する期限は原則、翌年の3月15日です。マイナンバーカードがあれば自宅から出せます。
- 翌年以降も申告を続ける黒字が出た年の確定申告で、その年の所得から繰り越した赤字を差し引きます。
申告書と青色申告決算書だけなら、国税庁の確定申告書等作成コーナーで無料で作れます。ただし、決算書のもとになる1年分の記帳は、作成コーナーではできません。帳簿づけから申告書の提出までをまとめて済ませるなら、会計ソフトでは数字が決算書に反映されるため、転記する作業は要りません。
私はfreeeで帳簿をつけ、決算書と申告書を作ってe-Taxで提出しています。freeeでは、損失申告の項目に沿って入力すると、第四表まで作成できます。赤字を給与所得と相殺する場合、freeeは損益通算が必要かを自動で判定しないので、申告書の選択画面で「損益の通算の計算書」を自分で追加します。
会計ソフトが初めてならfreee、簿記の知識があるならマネーフォワード クラウドが使いやすいです。
freee会計を無料で試してみる給与との損益通算など、繰越し以外に申告して得られるもの
- 給与との損益通算ができる
副業が事業所得にあたるなら、赤字を給与所得と相殺して、源泉徴収された所得税が戻る場合があります。副業が雑所得と扱われる場合、赤字は給与所得と相殺できません。 - 住民税の申告が別途不要になる
確定申告をすれば、市区町村への住民税の申告は要りません。確定申告をしない年は、「住民税の申告だけが必要なケース」にあたることがあります。 - 専業の人は、確定申告が所得を確認する資料になる
会社を辞めて事業だけをしている場合、原則として申告をしないと課税・非課税証明書が発行されず、国民健康保険料の軽減も受けられません。家族の扶養に入っていて、市区町村が扶養情報から所得を確認できる場合は、申告しなくても証明書が発行されることがあります。保育料の算定や児童手当の手続きでも、この証明書を求められます。金融機関から融資や住宅ローンを受けるときも、所得を示す書類が要ります。
出しそびれた年があるなら、期限後申告
申告期限(原則、翌年の3月15日)を過ぎていても、申告書は出せます。期限後申告といいます。納める税金がある場合は無申告加算税や延滞税がかかることがありますが、還付を受けるだけの申告なら、これらはかかりません。
- 還付を受けるための申告は5年
納める税金がなく、源泉徴収された税金を取り戻すための申告書は、対象の年の翌年1月1日から5年間提出できます。給与所得との損益通算で還付を受ける申告も、提出できるのは同じく5年間です。 - 繰越控除も、期限後申告で受けられる場合がある
現在の制度では、期限内申告は繰越控除の要件とされていません。赤字の年に第四表を付けた申告書を出し、その後の年分も続けて申告することが条件なので、申告期限後に未申告だと気づいても赤字を繰り越せることがあります。ただし、赤字の年に青色申告の承認を受けていたことが前提です(白色の場合、事業の赤字は原則繰り越せません)。
すでに翌年以降の申告を済ませている場合は手続きが複雑になるので、自分で判断せず税務署に相談してください。
私の令和2年分については、令和7年12月31日を過ぎたため、もう還付を受けられません。申告していない年がある場合は、期限が残っているか確認してみてください。
よくある質問
白色申告でも赤字は繰り越せますか?
原則できません。純損失の繰越控除は青色申告者の制度です。白色申告でも、変動所得の損失や被災した事業用資産の損失は例外的に繰り越せますが、通常の事業で生じた赤字は対象外です。これから開業するなら、青色申告承認申請書の提出を検討してください。
赤字は何年間繰り越せますか?
原則、翌年以後3年間です。3年以内の黒字から差し引けずに残った赤字は、4年目以降に控除できません。
赤字の年に確定申告をしませんでした。今からでもできますか?
期限後申告として、赤字の年の申告書(第四表つき)をこれから提出し、繰越控除を受けられる場合があります。ただし繰り越せるのは翌年以後3年間なので、古い赤字は控除できる期間がすでに過ぎていることがあります。すでに翌年分を申告しているかなど、個々の状況によって必要な手続きが変わるので、税務署に相談してください。
翌年も赤字だったらどうなりますか?
翌年分も第四表を付けて申告すれば、赤字は年ごとに繰り越せます。各年の赤字は、発生した年の翌年以後3年間繰り越せ、古い赤字から順に差し引きます。
開業前にかかった準備費用も赤字に含めていいですか?
開業前の準備費用のうち、開業のために特別に支出したものは「開業費」という繰延資産にあたり、60か月の均等償却か任意償却のどちらかで処理します。任意償却なら、経費にする年を選べます。開業費は赤字の年に全額計上せず、黒字の年に経費とすることもできます。ただし、仕入れた商品(棚卸資産)、10万円以上の備品などの固定資産、敷金、前払いの家賃は、開業費に含めず、それぞれ別の科目で処理します。迷う場合は税務署に確認してください。
前年は黒字でした。繰り越すのではなく、前年と相殺できますか?
できる場合があります。青色申告なら、赤字を前年の所得と相殺して前年分の所得税の還付を受けられる「純損失の繰戻し還付」という制度があります。赤字の年の確定申告書を原則として期限内に出し、あわせて繰戻し還付請求書を提出するのが条件です。前年分も青色申告をしていることが必要です。繰戻し還付を受けられるのは所得税だけで、住民税は繰越控除を使った翌年度以降に税額が下がります。要件が細かいので、使うときは税務署に確認してください。
まとめ
赤字だけなら、所得税の申告義務は基本的にありません。ただ、純損失の繰越控除は、赤字の年に第四表を付けた申告書を出すことが条件です。赤字の年に申告書を出していなければ、翌年に黒字が出ても前年の赤字を控除できません。申告期限後に未申告だと気づいても、申告書を提出すれば繰越控除に間に合う場合があります。
私は制度を知っていましたが、確定申告が面倒だという理由で提出を見送りました。申告していれば、所得税が約2万3,000円還付され、翌年度の住民税も約2万3,000円下がる計算でした。当時は、税負担を軽くするより、申告書を作らずに済ませることを優先しました。申告していない年がある場合は、期限が残っているか確認してみてください。
私が面倒だと思ったのは、1年分の取引を帳簿に記録する作業でした。会計ソフトなら口座やカードの明細を取り込んで仕訳できるので、手入力する項目を減らせます。私はfreeeを使っていますが、簿記の経験がある人にはマネーフォワード クラウドも合います。
freee会計を無料で試してみる※私は税理士ではありません。掲載内容は執筆時点(2026年9月)の情報です。制度や金額は変わることがあります。個別の判断に迷うときは、税務署や税理士に相談してください。
参考:国税庁 タックスアンサー No.2070 青色申告制度/No.2250 損益通算/No.1500 雑所得/No.2024 確定申告を忘れたとき/No.2030 還付申告/国税庁 質疑応答事例 開業費の任意償却/e-Gov法令検索「所得税法施行令」(第7条・繰延資産の範囲)/国税庁 タックスアンサー No.2072 青色申告特別控除/国税庁「青色申告決算書・収支内訳書作成コーナーとは」/freeeヘルプセンター「損益通算を行う」/e-Gov法令検索「所得税法」(第70条・純損失の繰越控除)/国税庁「所得税基本通達35-2」

