売上814万円でも、税金の対象になったのは約29万円だった
経費に入れたものと入れなかったものを、実際の決算書とあわせて紹介します。
私は市役所の窓口で確定申告を1,000件以上受け付けてきました。今回はそこで見てきたことではなく、BASEでアパレルショップを3年間運営し、自分で確定申告した経験をもとに書きます。いちばん売れた年(令和3年)の売上は814万円でした。ただし、そのすべてが手元に残るわけではありません。仕入れや経費を差し引くと、税金の対象になる所得はもっと少なくなります。
この記事でわかること
- いちばん売れた令和3年は、売上814万円でも、仕入れと経費、青色申告特別控除65万円で、税金の対象になる所得は約29万円まで下がった(実際の決算書つき)
- 実際に経費に入れたもの/入れるか迷って按分したもの(スマホ・水道は9%)まで公開
- 帳簿をつけ始めたのは開業から約6か月後。口座とカードを連携して、過去の取引までさかのぼって記帳できた
- 副業分で増えた税金は、私の税率では6万円弱。社会保険料は増えなかった(会社の社会保険のまま)
- 開業初年度の赤字23万円を申告せず還付を受けられなかったことなど、最初の年の失敗も紹介
どんな副業だったか(BASEで3年)
BASEでアパレルのネットショップを運営していました。売上は年によって違いました。
- 令和2年(開業の年):売上63万円・赤字
- 令和3年:売上814万円
- 令和4年:売上493万円
令和3年以降は、事業所得として青色申告をしました。副業が事業所得に当たるかを判断する基準(帳簿の保存と収入規模)は、「副業の所得は雑所得か事業所得か」の記事に書きました。
なぜ青色申告にしたのか
開業届と青色申告承認申請書は、令和2年にショップを始めたときに提出しました。青色申告には簿記の知識が必要なのかと身構えていましたが、freeeの画面に沿って取引を入力すると、その内容が複式簿記の仕訳として記録されたのでそこまで心配は不要でした。操作を調べながら入力を進め、申告まで終えられました。
青色申告特別控除を、満額の65万円受けられました。この控除の分だけ、税金の対象になる所得が減ります。
なお、65万円控除は、e-Taxでの電子申告か、優良な電子帳簿での保存(届出が必要)が条件です。令和8年分までは、電子申告も電子帳簿保存もしていなければ控除額は55万円、簡易な帳簿なら10万円です。令和9年分からは仕組みが変わり、55万円の区分がなくなります。複式簿記でも申告書を書面で提出すると、控除額は10万円です。訂正や削除の履歴が残る優良な電子帳簿をそろえて電子で申告すると、75万円まで控除できます。白色申告にはこの控除自体がありません。
この副業を事業所得として申告したのは、3年間運営し、仕入れや広告出稿、顧客対応を続け、帳簿をつけて決算書まで作っていたからです。開業届を出したから事業所得になるわけではありません。同じネットショップでも、規模や続け方によっては雑所得になります。
実際に経費に入れたもの
令和3年の決算書に載っている実際の金額です。このうち仕入れだけは、ほかの経費と分け、売上から売上原価として差し引きます。
- 仕入れ 約467万円(売上の約6割)
- 広告宣伝費 約90万円(売上の約1割)
- 支払手数料 約85万円(BASEの決済手数料や振込手数料)
- 減価償却費 約69万円(パソコン・備品と、持ち家(建物)の事業で使う分。高額なものを数年に分けて計上)
- 外注工賃 約3万円(商品登録の代行)
- 通信費 約1.6万円・水道光熱費 約1.8万円(スマホ・ネット・電気・水道を事業割合で按分)
- そのほか、消耗品費(梱包材やツール)、荷造運賃、租税公課 など
物販では、仕入れ・広告宣伝費・支払手数料が中心です。事業のために必要な支出は、経費として計上できるものがあります。「損する人・危ない人」の記事でも書きましたが、経費にできる支出を申告書に含めず、本来より高い税額を納める人が多くいます。私は、支払った理由を説明できる支出だけを経費に計上しました。
入れるか迷ったもの・按分の考え方
水道代やスマホ代など、私用も含むものは、経費にするかどうかを迷いました。ただ、作業はすべて家の中でやっていて、商品のリサーチにはスマホを使っていました。そこで、事業で使う割合を9%とし、その分だけ経費に入れ、残りの私用の分は入れませんでした。これを按分(家事按分)といいます。
按分割合は感覚だけで決めません。「作業部屋の面積で◯%」「1日の利用時間のうち事業で使う割合が◯%」など、利用実態を説明できる根拠をもとに決めます。水道代やスマホ代の9%も、利用実態から決めました。
持ち家の減価償却費
私の家は持ち家なので家賃はかかりませんが、建物のうち事業で使う分は減価償却費として計上できます(土地は対象外です)。令和3年に経費にできたのは約11万円でした。
計算は「建物の取得価額 × 耐用年数に応じた償却率 × 事業で使う割合」です。ただし、自宅を途中から事業にも使う場合は、住んでいた期間に減った建物の価値を差し引いた残額が、これから経費にできる総額の上限になります。「取得価額の何%まで経費にできる」といった上限はありません。
住宅ローン控除との関係
事業で使う割合を大きくしすぎると、住宅ローン控除が受けられなくなります。住宅ローン控除は、居住用部分が50%未満なら適用されず、50%以上90%未満なら居住用割合で按分し、90%以上なら按分不要です。
事業で使う割合が私のように1割ほどなら住宅ローン控除額は変わりませんが、その割合を決める前に条件も確かめてください。ローンの契約内容そのものを変えたいなら、借り換えの進め方を「住宅ローンを見直す」にまとめています。
売上814万円→所得29万円:青色申告決算書を公開
令和3年の決算書(損益計算書)がこれです。売上、経費の内訳、最後に残った所得まで、そのまま載せています。

月ごとの売上と仕入れの一覧です。

月別の売上を書き出します。いちばん少ない12月は6,980円で、5月とは525倍の差がありました。
| 月 | 売上 |
|---|---|
| 1月 | 714,920円 |
| 2月 | 23,260円 |
| 3月 | 970,830円 |
| 4月 | 730,307円 |
| 5月 | 3,663,530円 |
| 6月 | 690,320円 |
| 7月 | 312,140円 |
| 8月 | 238,300円 |
| 9月 | 474,240円 |
| 10月 | 238,180円 |
| 11月 | 75,840円 |
| 12月 | 6,980円 |
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売上 | 8,138,847円約814万円 |
| 仕入れ | 4,675,574円売上の約6割 |
| 差引(粗利) | 3,463,273円売上−仕入れ |
| 経費(仕入れ以外の合計) | 2,521,575円広告・手数料・減価償却など |
| 所得(青色申告特別控除前) | 941,698円 |
| 青色申告特別控除 | −650,000円 |
| 税金の対象になる所得 | 291,698円約29万円 |
令和3年の売上は814万円ありました。ただ、仕入れと経費を引き、青色申告特別控除65万円を適用した結果、税金の対象になる所得は約29万円まで下がりました。
この29万円は、青色申告特別控除まで差し引いたあとの副業の事業所得です。これに給与所得などを合わせ、基礎控除や社会保険料控除といった所得控除を引くと、最終的な課税所得と税額が決まります。
物販では、年末に売れ残った在庫は経費になりません。売上原価は「期首の在庫+その年の仕入れ−期末の在庫」で計算し、残った分は棚卸高として翌年に繰り越します。
売上の金額と、経費を引いたあとに残る利益は違います。仕入れがある商売では、売上と利益の差がさらに大きくなります。経費を計上し、控除を受けるかどうかで、最後に払う税金は変わります。
最初の年に失敗したこと
1つ目。商標登録されている言葉だと知らず、ショップの名前に使ってしまいました。ある日、権利者からメールが届き、続けて内容証明が郵送されてきて、焦りました。当時は、著作権や商標について十分な知識がありませんでした。すぐに返答して、ショップの名前やドメイン名を変えました。警告だけで済みましたが、対応を誤れば権利者とのトラブルにつながる可能性もありました。これから何か始める人は、名前を決める前に商標を一度調べてください。
2つ目。いちばん売れたのは5月でした。注文が重なった時期に、在庫確認や発送連絡が追いつかず、お客さんへの対応を誤ったことがあります。注文を処理する体制がないと、返信や発送が遅れ、信用を落とします。
3つ目。商品に不備があって、返品対応になったことも何度かありました。物販は、売って終わりではなく、そのあとのやり取りまで含めて仕事だと分かりました。
4つ目。令和2年の開業初年度は23万円の赤字でした。当時は会社からの給与もあったので、申告していれば、この赤字を給与所得と相殺(損益通算)できました。源泉徴収されていた所得税の一部が戻り、翌年の住民税も下がるはずでした。制度は分かっていたのに、帳簿をまとめるのが面倒で申告を後回しにし、還付金を逃しました。詳しくは「赤字23万円を申告せずに捨てた話」にまとめました。
帳簿づけのリアル
最初から帳簿をつけていたわけではありません。初めて売れたのは開業4か月目くらいでした。その後、少しずつ注文が増え、freeeに登録したのは開業から約6か月後でした。
freeeに口座とクレジットカードを連携したら、過去の取引までさかのぼって記帳できました。BASEもfreeeにつないでいたので、注文データもそのまま取り込めました。
売上を記録する日は、入金された日ではなく商品を発送した日にしていました。収入の計上時期は、取引の内容や性質、契約の取り決め、慣習などから判断します。BASEからの入金は翌月以降になるので、12月に発送して1月に入金された分も、発送した年の売上として計上します。
レシートや請求書は、紙のファイルとデータの両方で保管しました(帳簿や書類の保存は原則7年です)。あとで確認できるよう、必要な期間は保管しておきます。あとで税務署から経費について聞かれたときに、支出の根拠を示せます。
確定申告を自分でやるなら、会計ソフトで帳簿づけから申告書の作成まで進められます。按分や減価償却も、金額や割合を入力すればソフトが計算します。私はfreeeで帳簿と申告書を作りました。
会計ソフトが初めてならfreee、簿記に慣れているならマネーフォワード クラウドが候補になります。
税金と社会保険はどうなったか
所得が増えれば、その分の税金も高くなります。ただ、事業で使ったお金は、その都度経費にしていました。
いちばん売れた令和3年は、給与収入が約500万円、副業の所得が約29万円で、所得税は約15万円、住民税は約24万円でした。この税額は、住宅ローン控除を差し引いたあとの金額です。副業の所得を加えたことで、私の税率では税負担が6万円弱増えました(所得税10%+住民税10%)。
社会保険料については、増えませんでした。私は本業の会社で社会保険に入っているからです。社会保険料は本業の4〜6月の給与をもとに決まるので、副業の事業所得は計算に含まれません。
ただし、副業先でも社会保険の加入対象になる場合は、両方の給与をもとに保険料が決まります。
もし会社を辞めてこの事業一本にすると、所得が増えた分、社会保険料(国民健康保険など)も上がります。勤めているあいだは、この負担は増えません。
これから副業を始める人へ
- 大きなお金をかけず、小さく始めます。
- 副業用の口座とクレジットカードは、最初から家計用と分けて用意しておきます(あとで副業分を探さずに済みます)。
- 商品を出し、売れ行きを見ながら販売を続けます。
- 会計ソフトを使う時期は売上や取引量に合わせて決めます。ただし、領収書と取引の記録は最初から残しておきます。
口座やカードを含めて副業用に何をそろえるかは「副業でそろえる4つ」に、どの銀行で口座を作るかは「ドコモの銀行と楽天銀行の比較」に書いています。
ショップの始め方は、「BASEでネットショップを始める」にまとめています。
文章で発信するほうが向いていそうなら、「ブログを始めるのにいくらかかるか」を見てください。
よくある質問
開業届はいつ出せばいい?
開業した年分の確定申告期限までです。以前は開業から1か月以内でした。ただ、私のように売上が出てからfreeeに登録して帳簿づけを始めても、過去の取引は入力できました。青色申告にしたい年は、3月15日(土日祝と重なる年は翌平日)までに税務署へ「青色申告承認申請書」を提出します。年の途中(1月16日以後)に開業した場合の提出期限は、開業から2か月以内です。
赤字でも申告したほうがいい?
会社員の副業なら、申告して赤字を給与所得と相殺(損益通算)すると、源泉徴収された所得税が戻る場合があります。相殺しても残る赤字は、青色申告なら3年間繰り越せます。私は制度を知りながら赤字の年に申告せず、還付金を逃しました。赤字でも申告しておけば、所得税の還付や赤字の繰り越しにつながる場合があります。経緯は「赤字23万円を申告せずに捨てた話」に書いています。(損益通算も繰り越しも、雑所得ではなく事業所得として申告する場合に限られます)
副業が会社にバレない?
住民税を「自分で納付(普通徴収)」にする方法があります。ただし、給与を受け取る副業(ダブルワーク)では使えません。詳しくは「副業の住民税で会社にバレる仕組み」に書きました。給与の掛け持ちにあたる人は、「ダブルワークの確定申告」を見てください。
簿記の知識は必要?
簿記の知識はほぼ不要でした。取引を入力すれば、あとは会計ソフトが複式簿記の形に直します。
消費税はかからなかった?
かかりませんでした。消費税は、2年前(基準期間)の課税売上高が1,000万円を超えると、原則として納税義務が生じます。前年の1月1日から6月30日(特定期間)の課税売上高と給与等の支払額がどちらも1,000万円を超えた場合も、納税義務が生じます。私はいちばん売れた年でも814万円だったので、3年間ずっと免税のままでした。売上が1,000万円に近づいてきたら、消費税の納税義務についても確認しておきます。売り先がほとんど消費者なら、インボイス(適格請求書)の登録を求められる場面は多くありません。インボイス登録をすると、本来は納税が免除される売上規模でも、消費税を納めることになります。
いくらから確定申告が必要?
年末調整を受けた給与所得者なら、副業の所得(売上−経費)が20万円を超えたら所得税の申告が必要です。医療費控除などほかの理由で確定申告をする年は、20万円以下の所得も申告書に含めます。住民税にはこの20万円ルールがないので、確定申告をしない年は、20万円以下でも住民税の申告がいります。所得税の確定申告が必要になる条件は、「副業の確定申告で損する人・危ない人」の記事にまとめました。住民税の申告のやり方は「住民税の申告だけ必要な人は?」に書きました。
まとめ
3年間の副業では、会計ソフトを使うことで帳簿づけや確定申告の負担を減らせました。簿記の知識がなくても、口座やカードから取り込んだ取引を確認して登録すれば、帳簿を作って電子申告まで進められます。会計ソフトがなければ、65万円控除に必要な記帳を手作業ですることになっていました。
私が使ったのはfreeeですが、マネーフォワード クラウド確定申告でも帳簿作成から電子申告までできます。どちらも無料で試せるので、操作性や必要な機能を比べて選べます。
※私は税理士ではありません。この記事は一般的な内容と私自身の経験にもとづいています。制度や金額は執筆時点(2026年9月)の情報です。個別の判断は、税理士やお住まいの税務署・自治体にご確認ください。
参考:国税庁 タックスアンサー No.2072 青色申告特別控除/No.2090 新たに事業を始めたときの届出など/No.2109 新築家屋等を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却/No.1211-1 住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合/No.6501 納税義務の免除/No.1906 給与所得者がネットオークション等により副収入を得た場合/財務省「令和8年度税制改正の大綱」/国税庁「No.2200 収入金額とその計算」

