届け出の食い違いなどで、同じ月の住民税が複数から引かれてしまうことがあります
納めすぎた分は返金される。給与から引かれた分は、基本的には会社を通して戻る。
私は市役所の税務担当として、退職や転職に関する届け出を受け取っていました。会社から届く書類を処理し、前の会社の最終徴収月と転職先の開始月が合わなければ、提出元の会社へ連絡して、両社の徴収月を確認していました。退職したあとの住民税がどの扱いになるかは会社の届け出で決まり、二重かどうかは給与明細で分かります。
この記事でわかること
- 退職後の住民税は「普通徴収」「一括徴収」「転職先で特別徴収を続ける」の3つに分かれる
- どれになるかは、前の会社が出す給与所得者異動届出書で決まる
- どちらの会社からも引かれない月ができると、あとから月額が上がる。年税額が増えたわけではない
- 届け出が出ていなくても、納められた額が足りないことで市役所は気づく
- 届け出が正しく出ていても二重は起きる。だから書類ではなく実際に引かれた額を見る
| 引き継ぎ方 | どうなるか | 選ばれるとき |
|---|---|---|
| 普通徴収 | 自宅に納付書が届き、自分で納める | 6月から12月の退職は原則これ。前の会社がそのまま届け出る |
| 一括徴収 | 残りの税額を最後の給与や退職金からまとめて引かれる | 1月から4月の退職は原則これ。6月から12月は本人が申し出たとき |
| 特別徴収を継続 | 転職先の給与から引かれ続ける | 前の会社の用紙を引き継いだ転職先が届け出たとき |
※5月に退職した場合は、最終月分としてこれまでどおり給与から引かれます。制度の部分は2026年9月1日時点の東京都主税局・名古屋市・横浜市の案内によります。手続きの細かい運用は市区町村によって違います。
いま自分がどの扱いになっているかは、「二重かどうかを、給与明細で確かめる」の表で見分けられます。
退職したあとの住民税は3つに分かれる
住民税は、前の年の所得をもとに額が決まります。市区町村から届く書類では「市民税・県民税」と書かれていることが多く、呼び方が違うだけで同じ税金です。会社員のあいだは、その額が6月から翌年5月まで毎月の給与から引かれ、この納め方を特別徴収といいます。これに対して普通徴収では、住民税を自分で納めます。納期は原則として年4回です。会社を辞めると、住民税は給与から引かれなくなります。
そこで、残っている税額をどう納めるかが決まります。納め方は、次の3つです。
- 普通徴収に切り替わります。自宅に納付書が届き、自分で納めます
- 一括徴収になります。残りをまとめて、最後の給与や退職金から引かれます
- 転職先で特別徴収が続きます。新しい会社の給与から引かれ続けます
どれになるかは、退職した月と本人の希望によって決まり、前の会社が届け出ます。手続きには給与所得者異動届出書を使い、どの扱いにするかを前の会社が記入します。
普通徴収や一括徴収なら、記入済みの用紙を前の会社が市区町村へ提出します。特別徴収を続ける場合は、前の会社が用紙を転職先へ渡し、残りの欄は転職先が記入して市区町村へ出します。東京都主税局は、異動があった日の翌月10日までに事業主が提出するよう案内しています。
これは会社が任意でやっていることではなく、法律で決まっている役割です。地方税法321条の4は、市町村が給与を支払う者を特別徴収義務者として指定することを定めています。給与から住民税を引いて納めるのは、指定された会社の義務です。
さらに同法321条の5第3項は、給与を受け取らなくなった人について、特別徴収をしていた会社が届出書を市町村長へ提出しなければならないと定めています。
転職したのに納付書が届く理由
転職したのに自宅へ納付書が届くのは、前の会社が「退職後は普通徴収」と書いて届け出たからです。手続きを忘れたからではありません。
転職先で引き続き給与から引いてもらうには、新しい勤務先の情報を届け出に書く必要があります。横浜市は、異動届出書の「新しい勤務先」欄に転職先を記入したうえで、その勤務先から提出するよう案内しています。名古屋市も、特別徴収を続ける場合は前の会社が新しい勤務先へ徴収月と月割額を連絡するよう求めています。
つまり、特別徴収を続けるには、前の会社と転職先のやり取りが必要です。前の会社が何月分まで引くか、新しい会社が何月分から引くかを伝え合います。引き継ぎをせず、退職後は普通徴収として届け出る会社もあります。
注意
納付書が届いたら、まず転職先の給与から住民税が引かれているかを見てください。引かれていなければ、手元の納付書を使って自分で納めます。転職先でも引かれているなら、市区町村の税の担当課へ連絡してください。
新旧の会社の連絡がかみ合わないと何が起きるか
引き継ぎのずれは、住民税を引く月について前の会社と転職先の認識が合わないときに起きます。私が見てきた範囲では、次のようなことが起きていました。
- 前の会社が引く最後の月と、新しい会社が引き始める月がずれています
- 届け出の内容は正しいのに、前の会社が予定より後の月まで住民税を引いてしまいます。あるいは、新しい会社が予定より早く引き始めます。このとき同じ月の分が両方から引かれます
- どちらの会社からも引かれず、納めていない月が生まれます
- 住民税は普通徴収に切り替わっているのに、前の会社が市区町村への納付を続けてしまいます。会社が給与から引かずに納めただけなら本人の負担は増えませんが、給与から引いていれば二重になります
届け出のずれは、市区町村が受け取って入力する時点で分かります。給与処理のずれは書類に矛盾がないので、その場では分かりません。
市区町村は、納められた額と届け出の内容を照らし合わせて、このずれをあとから見つけます。本人は給与明細で先に気づけます。届け出と給与処理の食い違いは、新旧の会社で引く月が一致しないときに起きます。連絡を取っていないせいだとは限りません。前の会社が何月分まで引き、転職先が何月分から引くかについて、両社の担当者の認識が違ったまま手続きが進む例を多く見ました。
本人側の事情で、引き継ぎができない場合もあります。転職先を前の会社に伝えたくないという人がいます。その場合でも、伝えないと特別徴収は続けられません。その場合は普通徴収で納めるか、入社後に手続きをして特別徴収へ切り替えます。
市役所はどこで食い違いに気づくか
届け出の段階で見つかるもの
まず、会社から届け出が提出されていない場合です。市役所では、その人が辞めたことを把握できません。そのため、これまでどおり会社が納めてくるものとして処理を進めます。
ところが翌月、会社から納められた金額には辞めた人の分が入っていません。市役所は納付額と届け出の内容を照合し、不足している分を確認します。そこで徴収の担当者が会社へ連絡し、異動届出書を出してもらうよう頼みます。
届け出後の扱いは、退職した月に加え、本人・前の会社・新しい会社の取り決めによって変わります。
次に、届け出の内容が合わない場合です。この食い違いは、市役所が書類を受け取って入力するときに分かります。
給与所得者異動届出書には、前の会社が何月分まで引くのか、新しい会社が何月分から引くのかを書く欄があります。この2つの月が連続していないと、システムへの入力時にエラーが出ます。書類を見た時点で気づくこともあります。
普通徴収や一括徴収なら前の会社へ、特別徴収を続ける場合は転職先へ電話します。
前の会社が最後に引く月と、新しい会社が引き始める月を聞き取り、届け出を直します。私がいた市では、この確認は電話で完了していました。書類を出し直してもらうことはありませんでした。
こうした食い違いは、月に3件ほど見つかっていました。3月から6月は、退職や入社と年度の切り替えが重なり、ほかの月より食い違いの件数が増えていました。
会社の給与処理でずれるもの
届け出は正しくても会社の給与処理がずれ、前の会社と転職先が同じ月の分を引くことがあります。書類のうえでは矛盾がないので、入力の時点では分かりません。
あとから納められた額を見て、徴収の担当者が気づきます。会社に連絡して現状を聞き取り、その月の住民税をどちらが引く予定だったか確かめます。
ヒント
市役所は、こうした食い違いを毎月いくつか確認し、修正しています。届いた納付書に納得がいかないときは、自分の手続きミスだと判断する前に、まず市区町村の税の担当課に電話で聞いてください。手元の納付書が、どの届け出にもとづいて作られたかを教えてもらえます。
二重かどうかを、給与明細で確かめる
気づく手がかりは、給与明細です。二重徴収は、届け出が正しく出ていても起きるので、書類ではなく実際に引かれた額を見てください。
| 手元の状態 | いま起きていること | やること |
|---|---|---|
| 納付書が届き、前の会社からも新しい会社からも引かれていない | 普通徴収で届け出られている | その納付書で納めます。正しい状態です |
| 新しい会社の給与から引かれていて、納付書は届いていない | 特別徴収が続いている | そのままで問題ありません |
| 前の会社の最後の給与と、新しい会社の最初の給与で、同じ月の分が両方から引かれている | 二重 | 市区町村の税の担当課へ連絡 |
| 納付書が届いているのに、前の会社の給与からも引かれている | 二重 | 市区町村の税の担当課へ連絡 |
| 納付書が届き、新しい会社の給与からも引かれている | 給与以外の所得の分だけが普通徴収になっていることがあります。別の年度の分のこともあります | 納税通知書で年度と内訳を確かめ、分からなければ担当課へ連絡 |
| どちらからも引かれていない月がある | 引き継ぎの抜け | 担当課へ連絡してください。あとから月額が上がることがあります |
| 前の会社の最後の給与で、いつもより大きい額が引かれている | 一括徴収 | 間違いではありません |
| 納付書も届かず、給与からも引かれていない | 届け出が出ていない可能性があります。前年の所得によっては、そもそも課税されていないこともあります | 担当課へ連絡 |
給与明細では「住民税」または「市民税・県民税」と書かれた欄に金額が出ています。納付書には、1枚ごとに「期別」と「納期限」が記載されています。各期の金額を合計した額は、これから自分で納める分です。退職前に給与から引かれた分があれば、納付書の合計額はその年の年税額と一致しません。転職先の給与から引かれる分を、手元の納付書でも納めてしまうと二重になります。納めすぎた分は市区町村から戻ります。
最後の給与でいつもより大きい額が引かれていたなら、一括徴収です。これは残りの税額をまとめて引いたもので、1月から4月に退職し、5月31日までに支給される給与や退職金が残りの税額を超える場合は、原則としてこの扱いになります。
なお、退職金そのものにかかる住民税は、これとは別に引かれます。退職金の額から退職所得控除を引き、その半分が課税の対象です。その額に市区町村民税6%と都道府県民税4%がかかり、支払いのときに差し引かれます。
納付書の納期は市区町村によって違います
地方税法320条では、普通徴収の納期を6月・8月・10月・1月の中から市町村の条例で定め、特別の事情があれば別の納期にもできるとしているからです。前に住んでいた市と納期が違っても、間違いではありません。
納付書が届き、どちらの会社の給与からも引かれていないなら、届いた納付書で自分で納めます。新しい会社は、市区町村から特別徴収税額通知書を受け取っていなければ、税額がいくらなのかを知りません。金額を知らなければ、給与から引けません。
まれに、普通徴収に切り替わったあとも前の会社が納め続けることがあります。会社が給与から引かずに納めているだけなら、本人に連絡は来ません。ただし、退職後にも支給がある場合や、最後の給与で天引きする住民税の月数を誤った場合は、前の会社が住民税を引いてしまいます。この場合は、同じ月の住民税を納付書で納め、給与からも引かれるため二重になります。給与明細を確かめてください。
二重や抜けに気づいたら、市区町村の税の担当課へ連絡してください
会社へ問い合わせる前に、担当課へ連絡して構いません。電話をかけるときは、前の会社の最後の給与明細、新しい会社の給与明細、届いた納付書を手元に置いてください。
市役所に両方の会社から届け出が届いていれば、職員が現在の扱いを確認できます。同じ月の分を両方から引かれていれば、納めすぎた分は返金(還付)されます。給与から引かれた分は、納めた会社へいったん還付され、その会社から本人へ返されます。
市区町村から直接本人へ返す自治体もあるので、どちらになるかは担当課に聞いてください。住民税が還付されるまでの流れは、「住民税の還付はいつ振り込まれるか」に書きました。
納付書の納期限が過ぎているときは、早めに担当課へ連絡してください。督促の流れと、払えないときの相談は、「住民税の督促状が届いたらどうするか」にまとめています。
引かれていない月があると、あとから月額が上がる
引かれていない月が見つかったとき、市区町村はまず会社に連絡し、現在の徴収状況を確認します。本人がすでに退職しているなら、異動届出書を出してもらいます。
異動届出書を受け取ったあとの処理は、2つに分かれます。普通徴収になるなら、残りの税額を記載した納付書を作り、本人へ送ります。新しい会社で特別徴収を続けるなら、引かれなかった月の分を残りの税額に加え、残っている月数で割り直します。割り直した月額は、新しい会社が給与から天引きします。
転職からしばらくたつと、住民税の天引き額が増えることがあります。住民税の年税額が上がったわけではありません。引かれていなかった月の分を、残りの月で分けて納めるだけです。
注意
残りの月数が少ないほど、1か月あたりの額は大きくなります。5月ごろに会社から渡される住民税の通知書には月ごとの金額が書かれているため、記載額と異なる額が引かれていれば、途中で割り直された可能性があります。気になるときは市区町村の税の担当課に聞いてください。
退職した月で扱いが変わる
制度上は、退職した時期で扱いが分かれます。東京都主税局の案内は次のとおりです。
| 退職した時期 | 残りの税額の扱い |
|---|---|
| 1月1日から4月30日 | 5月31日までに支給される給与や退職金が残りの税額を超える場合は、本人の申し出がなくても一括徴収 |
| 5月中 | 最終月分として、これまでどおり特別徴収 |
| 6月1日から12月31日 | 普通徴収に切り替わります。本人から申し出があれば一括徴収 |
ただし、実際にはこのとおりにならないことがあります。1月から4月は、本人の申し出がなくても一括徴収になる期間です。制度上、会社の判断で普通徴収を選ぶことはできませんが、普通徴収として届け出る会社もあります。普通徴収として届け出た会社が、残りの税額を一括で納めることもあります。この時期はこうした食い違いが増えます。
また3月から6月は、届け出が集中します。件数が多い時期ほど、行き違いも起きやすくなります。
時期の表は、退職後の扱いを予測するための目安です。自分がどの扱いになったかは、給与から住民税が引かれているか、納付書が届いているかで分かります。
よくある質問
転職したのに納付書が届きました。私の手続き漏れですか?
いいえ、本人の手続き漏れではありません。前の会社が給与所得者異動届出書で「退職後は普通徴収」と届け出ると、市区町村から自宅へ納付書が送られます。転職先の給与から引かれていないなら、その納付書を使って自分で納めます。
納付書には「市民税・県民税」と書かれています。住民税とは違うものですか?
同じものです。住民税は、市区町村に納める分と都道府県に納める分を合わせた呼び方です。書類の名前は自治体によって異なり、市では「市民税・県民税」、東京23区では「特別区民税・都民税」となります。令和6年度からは森林環境税が住民税の均等割と併せて課税されるため、「市民税・県民税・森林環境税納税通知書」という名前で届く市もあります。二重かどうかを確かめるときは、給与明細の住民税欄の金額と納付書の税額を見比べます。
二重に引かれているかもしれません。どこで分かりますか?
見比べるのは、前の会社の最後の給与明細と、新しい会社の最初の給与明細です。同じ月の分が両方から引かれていれば二重です。納付書が届いたあとも前の会社の給与から引かれているときも、同じ月の分が重なっていれば二重です。気づいたら市区町村の税の担当課へ連絡してください。
前の会社に転職先を伝えたくないのですが、どうなりますか?
特別徴収を続けるには、新しい勤務先の情報を届け出に書く必要があります。伝えなければ続けられないため、普通徴収に切り替えて自分で納めます。転職先での勤務が始まってから、改めて特別徴収へ切り替える手続きもできます。切り替えるときは、勤務先が特別徴収切替届出書を市区町村へ出します。手元の納付書は勤務先へ渡してください。ただし納期限を過ぎた分は切り替えられないので、その分は自分で納めます。私は窓口で、この点を会社や本人に説明していました。
一括徴収で、引ききれないほど税額が大きいことはありますか?
あります。1月から4月の退職で一括徴収になるのは、5月31日までに支給される給与や退職金が残りの税額を超える場合です。引ききれない分は、自分で納めるか、転職先の給与から引いてもらいます。最後の給与でいつもより大きい額が引かれていても、それは残りの税額をまとめて引いただけで、間違いではありません。
会社が異動届出書を出してくれていないようです。放っておいて大丈夫ですか?
市役所は納付額を予定額と照合し、不足があれば会社へ連絡します。心配なときは、市区町村の税の担当課に問い合わせて、現在の徴収状況を確認できます。
まとめ
退職したあとの住民税は、普通徴収・一括徴収・転職先での特別徴収の3つに分かれます。どれになるかを決めて届け出るのは会社です。転職したのに納付書が届いたのは、前の会社が普通徴収で届け出たからです。
二重に引かれるのは、前の会社が引く最終月と転職先が引き始める月が重なったときです。引かれない月ができるのも、連絡がかみ合わないときです。私がいた市では、こうした食い違いが月に3件ほど見つかっていました。二重徴収や徴収漏れが疑われるときは、税の担当課へ電話してください。
※私は税理士ではありません。掲載内容は執筆時点(2026年9月)の情報です。届け出の様式や運用、普通徴収の納期は市区町村によって違います。個別の状況は、お住まいの市区町村の税の担当課にご確認ください。
参考:東京都主税局「特別徴収にかかる手続きについて」/名古屋市「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」/横浜市「個人住民税の特別徴収に関するよくあるご質問」/e-Gov法令検索「地方税法」/大阪市「退職手当等に対する市民税・府民税の特別徴収について」/広島市「退職所得に対する住民税のあらまし」

